Ｌｏｎｅｓｏｍｅ ＨｉｇｈＳｃｈｏｏｌ ｂｏｙ
「浅村ァ、アサムラ、セイジ」日本史の綿田が、返事を全く期待していないような
言い方で、浅村誠二の名前を呼んだ。 誰も返事などしやしない。 ある奴は、
窓の外の高速道路を走る車を眺めたり、また別の奴は、机に突っ伏して熟睡している。
月曜の朝なんて、一番たりぃ時間だ。誰だって眠い。仕方なく、綿田はひとりごとの
ように言う。「あとは、全員、揃っているんだろうな。」
と、その時、教室の前側の戸が、バアン、と大きな音をたてて開かれた。
ペッタン、ペッタン、といかにものどかな音をさせて、入室カードを持った浅村が
入ってきた。教卓のところに来ると、無表情のまま”綿田先生”にそのカードを放り
出し、自分の席へと向かう。
「いい加減、早く出てこんと２年に上がれんぞ。分かってんのか。」綿田が、その後ろ
姿に言葉を投げかける。もとより返事はない。
来週から二学期の中間試験がはじまるので、また出席は良くなった。綿田じゃないけど
全員揃っているのなんて、ひょっとしたらこの二学期で今日がはじめてなんじゃないか、
と思う。ま、どうでもいいんだけど。
「いいか、室町時代のォ、この文化の特色のォ所は、特に大事だ。」綿田はタルくてたまん
ねぇ、この月曜の朝から絶好調だ。
なぁにが大事なんだよォ。-------俺は２列ほど離れた右斜め前を見る。浅村はカバンを
机の上において、その上からかぶさるように、寝てる。-----『ああ---』広い背中、がっ
ちりとした肩の線は白いシャツで見えないけれども、ひじからそして続く大きな掌。水の中
で、しなやかにパワフルに水をかき出すその筋肉は、静かな力をたたえてそこに沈んだよう
になっている。 俺は、そんな浅村の方から、慌てて何も書いていない自分のノートの上に、
視線を戻す。
どうしたって、いうんだろ。------何だか気がつくと、俺は浅村ばかりを見てるような気が
した。
『オイ、オマエ、あいつは 男だぜ。いいか？ オマエが女なら な。男が男を見つめるなんて
のはなぁ、、』どこかでそんな声がしてる。 でも、もうひとりの、別の俺が応えている。
『そうさ、そんなのヘンさ。』けど、けど、俺は、俺の目は、気がつくと奴の上に注がれてる。
何て言うのかな、あいつを見てると、元気になれるんだ。俺も元気でがんばらなきゃな、ってい
う気分になれるんだ。不思議だよな。
これって、変なのかなぁ。ああ、やっぱ変だって、言うんだろうな。-----ハアッ。
俺が初めて浅村のことを見たのは、去年の４月のことだった。
新入生のオリエンテーションとやらで、俺たち、っていうか、クラス単位で分けられて、ここが
理科室で、とかここがプールで、とか、あっちこっち連れまわされてる時だった。俺はクラスの
連中の最後にくっついて、ボーっと歩いていた。で、コンピュータ室の入り口で、ちょうど隣の
クラスと入れ違いになった。
-----奴もクラスの連中の最後にいた。まぁ、あのガタイだ。１ｍ８２くらいはあった。俺よか
５センチは高い。目がすごく印象的だった。何かこう目の光が強くて、その視線がストレートに
俺の目の中に飛び込んできた。
その時、俺はなぜだか「どきん」とした。その「どきん」が何か、まだその時の俺はよくわから
なかったけれど、『はあ、こういう奴もいるんだな。』って、その時俺は思った。
その次、奴に会ったのは、プールサイドだった。
部活、どうしようか、と俺は悩んでいた。水泳もやりたかったし、ラッパを吹くのも好きだった
んで、ブラスバンドでもいいかな、って思ってた。『まぁ行ってみてからだよな。』-----俺はそう
思って最初、音楽室に行った。
戸をあけると 多分２年の女だかが２人。陰気な顔をしてクラリネットを吹いていた。奥のほうでは
ごつそうな、音楽室にいるより柔道か相撲部じゃねえの、っていう感じの男が、トロンボーンの
スライドにグリースを塗ったくっているのが見えた。そいつがこっちをじっと見て、そして言った。
「ブラスに入るんか？」その声はヒョロヒョロと甲高くて、あまりの落差に、俺は思わず転びそうに
なった。
何だよォ、ここはバケモノ屋敷かぁ？
「あ、いえ、間違いました。すいません。失礼しましたぁ。」
俺はよろよろとその部屋を出た。『あーあ、ここはボクの来るところじゃありませんでした。』
そして、俺はプールに向かっていた。
まだ四月の半ばだったけれども、屋外プールで部員達は当然のように水しぶきの音をあげていた。
やっぱり少し驚いた。
プールは運動場の端にあった。周りの地面より１．５メートルほど高くなっていて、周囲はフェン
スで囲ってあった。そこに何人かの新入生の連中が、フェンスにもたれかかるように、中のプールを
見ている。あ、右端の奴って、、ひょっとして、、、、
そうみたいだ。間違いはなかった。へぇ、水泳するのか。俺はフェンスの左のほうを見たいような気が
したが、わざと気づかないふりをしてプールの中をのぞきこんでいた。
「おおい。」どこかで声がした。
「なぁ。」そして今度はすぐ近くで声がした。
俺は左を見てびっくりした。すぐそばにあいつが立っていたから。奴はニコッと笑いながら俺に尋ねた。
「オマエも水泳部入るんか？ 」
「あ、-----いや。まだ、わかんない。」
「どうして？ 」
「ブラスバンドでさ、ラッパ吹くのもいいかな、とか思ってさ。ひょっとして、甲子園のアルプススタンド
で、、とかっていうのもあり、かな、ってさ。」
奴は、俺のこのムチャクチャな言葉に、表情を少しも変えなかった。
不思議だった。言葉が自然に出てきた。俺は初対面の奴の前では、ほとんど口が聞けないのがいつもの
ことなんだけど、それにこいつなんかみたいな奴の前では、絶対キンチョウしちゃって、言葉が出ないか
な、って思っていたけど、何かすごく意外だった。
「オレ、オマエみたいに、いろいろできないからなぁ、、。それに-------」
俺は、もう一度きちんと奴の顔を見た。入れ違いに今度は奴が目をそらした。
「オレさ、中学ン時の最後の大会、出られなくてさ。スッゲエ、悔しかったからさ----優勝候補だった
んだぜ。一応これでもな。それが-------」
「何かあったの？ 」
「うん。事件があってな。-------」
奴はそれだけしか言わなかった。
「で、それで出場停止になったとか？ 」
「ああ。まぁそんなとこ。で、オイラの１５の夏はパァさ。」
「でも、またここでさ、がんばればいいじゃないか。」
「１５の夏と、今年の夏は違うんだ。」
奴は、少しかすれ気味の声だったが、きっぱりそう言った。
俺はその迫力に、ただ押し黙るしかなかった。何だ。変な奴だな。夏なんてさ、お祭りみたいな
ものじゃねぇか。何か勢いでさ、暑さの中でパーッと盛り上がってさ。もうイケイケのノリで
少しくらいアクシデントがあろうと突っ走ってさ。で、本当のピークって、後から見たら
そう長くはない。ないけど、その時は、もう何も分からないから、とにかくパーッと突っ走っちゃってさ。
で、やがて終わりが来て、あれほどみんな騒いでたのに、いろんなものがあったのに、終わっちゃったら
何も残っちゃいないんだ。まるで映画のセットみたいに、一歩中に入ると何もなかったりする。
夏って、そんなことの繰り返しじゃないかな、っていう気がするけど。だからさ、みんな夏になったら
チューブ！ とか言って聞くんじゃないかな、って思うんだ。
俺は、プールを見ながら、そんなつながりのないことをボンヤリト考えていた。２年生か３年生が
目の前で泳いでいたはずだけど、正直言ってあんまり速そうな奴はいないような気がした。これなら
何とかなるかもしれない。俺はそう思った。それに、あのオタッキーなブラスバンドの連中と過ごす
のなら、こっちのほうが何倍もいいような気がした。
「俺、水泳やる。」俺は、プールの水面を見ながらそう言った。
今度は奴が慌てて俺のほうを見た。奴はうれしそうな顔をして、「そっか。」とだけ言った。
奴は名前なんてメンドクセエ、と言った感じで浅村誠二と言った。ベストは「中２の時、市の大会で
準優勝。」
「一昨年だろ？ 」俺は聞き返した。俺はアサムラなんて奴聞いたことなかったし、見たこともなかった。
これくらい大きければ、目立ったはずなのに-------。
「オレ、今年の３月まで福岡にいたから。」
「ああ。」
その年、水泳部に入ったのは、後８人だった。女子は３人で残りは男子だった。俺は浅村以外との
連中とは、対外試合とか総体とかで、もうみんな顔見知りだったので、その意味ではすんなり部の中
にもとけこめた。
こうして、俺の「青春高校生活」がはじまった、のだけれど、オモシロイことなんて、そうそうある
わけではなかった。
授業が終わると部活に行く。そのうち朝練（早朝練習）がはじまる。授業（ほとんど寝てる）があって、
放課後の練習がはじまる。
俺は寝てるか、泳いでるか、メシ食ってるか、の毎日だった。高校生活の印象？ そんなものは
「眠い」の一言だった。何だか、ものすごく眠くて眠くて、どうしてこんなに眠いのだろうなんて
考える間さえなく、もうめったやたらに眠かった。
毎日練習が終わって、帰りはなんとなく浅村と一緒になった。二人とも電車通学で、途中まで同じ
線だったから、他の連中は自転車だったし、帰る方向も全然違っていたから、自然とそうなった、
っていうのもあるのだけれど。途中の駅でお互い別れるまでの間、俺たちは、結構いろいろな話をした。
練習中は一言もしゃべれなかったから。（まぁ、泳いでいるわけだから、当然だけど。）
浅村は去年泳げなかった、というか自分の中に溜まっていたものを吐き出す、といった感じで、
すっげぇ勢いで練習していた。
俺といえば、練習が嫌いで（夏の外のプールなんて、水じゃないんだ。もう熱くてさ。お湯なんだ。
水の中入るとさ、もう息苦しくってさ、まともに泳げたものじゃないんだぜ。見てる分には、涼しそう
かもしれねぇけどさ。）ま、適当にバチャバチャやってたけど。
あれは、もうちょっとで夏休み、っていう朝だった。俺は前の晩、なかなか寝られなくて、（１年に
２〜３度はそういうことが俺にはある。）で、寝過ごしてしまって、いつもよか３０分くらい遅い電車に
乗った。混んではいたけど、まぁいつものことだし。
すると、何だか変だったんだ。俺の前には男がいたんだけど、そいつ、ちょっと変だった。だって、
普通、人が前に来たら、当たるとか、触れるの嫌だから、右とか左とか、身体かわすだろ？ それが、
こいつ全然動かないんだ。何か当たるの嫌だし、それに第一狭いからさ、ちょっと、こう俺が身体を
ずらして、こいつの前に立たなくて済むようにしたんだ。------ったく何だよォ、って思ってたんだ。
俺は１７８くらいだったけど、そいつは俺よか背は低かったから、まぁ大して気にはしてなかったけど、
うざい奴、くらいには思ってたわけさ。で、ちょっとズラして、顔見たらさ。４０くらいのオヤジに見
えた。けど、よーく見たら、まだ２０代っぽそうなんだ。服とかもさ。白に黒のラインが５センチごと
くらいに入ったシャツでさ。銀縁のメガネでさ。スラックスなんかはいてて、どう見てもオヤジなの。
顔だってさ、ちょっと小太りで色だって白くって、ひげが濃そうで、髪だって七三でさぁ。あーあ。
（いない？ こういうタイプってさ。いるよね。）はぁ、こういう何かの時間の流れっていうのがさ、
止まってしまってる奴って、時々いるんだよね。で、えーって思ってたの。
それが、しばらくするとさ。何か前のほうが変なんだ。（ああ、恥ずかしィッ！）どこが、どう変
なのか、その時の俺はまだよく分かっていなかったんだけど、そのうちハッとして、俺、自分のカバン
とか見たんだよね。何か取られたりでもしたら、とか思ってさ。
すると、もう俺、目が点になっちゃった。そのオヤジがさ、オ、俺の股間をさ、さわってたんだよ。
その、何か毛深そうな、ブヨン、とした手がさ、一直線に伸びて。だって不意に当たったとか、っていう
んじゃなさそうなんだもの。もし、当たったんだったら、「ごめん。」とか言って、手が引っ込むじゃ
ない？ 絶対故意だよこれ、って思った。だって、そいつは手を伸ばしてきてて、ずっと手がそこにあった
んだから。
でさ、俺のズボンの前をさ、軽く撫で回してるんだ。俺、最初はよく分かんなかったの。何か目と
頭と身体がさ、全然ひとつに動いてくれなくてさ。こいつの手が俺の股間を触ってる、っていうことは、
目に映ってるし、見えるんだ。はっきりとね。
けど、そっから、それが頭の方へ行って、自分の感情として、これをどう思うか、っていう気持ちが
まるで何かに遮断されたみたいになっててさ、ただじーっとそれを見てるだけだった。そのうち、ちょっと
してから、ようやく「エエッ！ オイ、これって、やっぱりまずいんじゃねえの。」とか思ってさ。身体を
９０度ひねってかわしたんだ。すると今度は、俺の尻さわってきたんだ。俺、チッて舌打ちしたんだ。
でさぁ、そいつやめるかな、って思ったらわかってねえのか、聞こえちゃねえのか止さねぇんだよ。
で、俺も考えた、ところが言葉ってこういう時って出て来ねえんだよ。そういう時って、もう普通ドラマ
なんかじゃ「なーにやってんだよ、コラ。」とかさ、足、踏んづけてやる、とかあるけど何も言えねぇの。
情けないったら、なかった。で、どうしようか、って思ってたら、ちょうど電車がとりあえず駅に着いた
んで、急いで降りたんだ。そいつ？ 知らねぇよ。はぁー、俺、もう学校なんてさ、どうでもよくなって
たんだけどさ。でも、このまま休んじまうっていうのもさ、何だかもっとミジメになるような気もして
どうしようか、って思ってホームにいたんだ。するとまたビックリ。そこに浅村がいたんだもの。
「あ、あれ、どうしたの？ 」 俺は奴に近づくと言った。
「オマエこそ、なァんだよォ。」
俺は返事の代わりに大きなあくびを一つした。
「眠てえよなぁ。オレ、朝起きてさぁ、ボーッとしてたらさぁ。タルくってさ。また寝てしまってさ。
気がついたらこんな時間で、、、。ハァア、眠い。」今度は浅村が大きなあくびを一つした。
「俺、ゆうべ何だか寝つかれなくってさ。で、寝るのが遅くなって、、、。」
「どうした？ 悩みでもあるのか？ 」
奴の問いに、俺はついさっきのことを思い出した。
「夕べは、別になかったのさ。あああ。さっき、できたんだよォォ。クソッ！ 」
「どうしたんね。オイしゃんが聞いてあげるから話したらよか。」
「こーんな所では話せねえ。」
「じゃあ、あそこ行こうぜ。」
浅村はそう言うと、駅前のハンバーガーショップをあごで指して言った。
「どうしたんだ。好きな奴でもできたか？ 」
「違う。」
「金でもスラれたと？ 」
「そんなんじゃねぇ。」
「だから、何だよ。」
「さ、さっきの電車の中でさぁ、チカンに遭っちまったんだ。」
「へ？ 」
浅村は、丸い大きな目をさらに見開いて俺を見た。
「気がついたらさ、知らねェオヤジが、俺の前ん所をさ、触ってやがんの。俺さ、もうびっくり
しちまってさ。あーあ、もう、俺、ダーメだぁ。立ち直れねぇー。」
俺は、おちゃらけた言い方で、つとめて明るく言った。
「そう、かぁ、、。」
浅村は、そんな俺を結構真剣な顔で受け止めてくれた。
「で、えーっと。ホラ、さぁ、触られた他に、何かされたのか？ 」
「何かって？ 」
「いや、他に、ホラ。」
「------」俺はだまって、首を横に振った。
「そうか。」
彼はポテト一本つまみあげて、それをじっと見つめながら、何か考え込むように言った。
「そいつは、ホント、悲惨だったよな。」
「------」
正直な話、俺はさっきの電車の中では、イマイチ現実感がなかったのだけれど、こうして
浅村に話をしているうちに、何か、だんだん怒りがこみ上げてきた。そして、何もできなかった
自分と、その腹立ちでぐちゃぐちゃになって、気分がスンゲエ悪かった。
ただ、そんな悪い気分ではあったけど、それを救ってくれた奴がいたことは、まだありがたかった。
そんな奴もいなかったら、俺は、もう------。
「よし！」
浅村が力強く何かを決めたかのように言った。「おいしゃんに任せんね。今日は学校は休みったい。」
「------」俺はニコニコしている浅村をぼんやりと見た。
最初、遊園地の入り口まで来ても、俺の気持ちはイマイチ、すっきりしていなかった。
平日の、それも夏休み前の午前中の地方の遊園地なんて、ガラガラで、どれにも待つことなく
すぐに乗れた。
はじめは、何だか俺はボーッとしてた。浅村は、もう次から次へと、「今度はアレに乗ろうぜ。」
「こっちのもいいよな。」「オッ、やっぱりジェットコースターは外せねぇよな。」って言いながら、
俺をひきずりまわした。けど、そのおかげで、朝、感じていたはずの嫌な気持ちはだんだんなくなって
いった。
「ハァァ、すごかった。」
「オシッコ、ちびらんかったとね？ 」浅村はニヤニヤ笑いながら言った。
「バーカ。」
俺は軽く小突く真似をした。
「-------」浅村が黙って笑いながら、俺の顔をじっと見ている。
「うん？ 」
「いやぁ。やっと普通になったか、と思ってね。」
「アー、俺、腹減っちゃったよォ。メシ、メシ、何か食いにいこうぜ。」
俺はそれだけ言うと、浅村の顔を見ないでズンズン歩きはじめた。
「オイ、服を脱げよ。」
いきなり浅村がそう言った。
俺は言われるままにのろのろと立ち上がり、Ｔシャツを脱ぐ。浅村もいつもの漢字でパッパッと服を
脱いでいく。
「オ、オレ、オマエをはじめて見た時から、オマエのこと-----」
脱ぎ終わった浅村は俺にそう言った。俺は何も言えずに、立ち尽くしているだけだった。
「好きだ。」浅村の言葉とほとんど同時だった。
「ホラッ、こんな所でオマエ達何をしてるんだ。」
そう言いながら、突然綿田が入ってきた。
でも、何で野球部の顧問が、水泳部の部室に入ってくるのだろう。
「オマエたち、何してた？ 」
綿田はドアを後ろ手で閉めると、ニヤニヤしながらこちらのほうに近づいてくる。
俺は「き、着替えです。」と答える。
「まぁな。水泳部が裸でいても、誰も変だとは思わないけど、なぁ、浅村、今、何やってた。
言ってみろ。」
浅村はニコニコしながら答える。「セックスですよ。先生も一緒にすっとね？ 」
俺は、これは何かの悪い冗談だと思う。
何と綿田先生も服を脱ぎ始めた。
「え？ せ、先生！ 」
「なぁんだよ。オマエ、教師と生徒がセックスをして悪いのか？ 」
「ア-------」
俺は何だかおぞましい気分になって叫び声を挙げた。途端、目に入ってきたのは、自分の部屋の
天井だった。
ハァア、それにしても何という夢だったのだろう。ったくよォ、タチの悪い冗談だぜ。
俺は、その夢を一度拒否してしまおうとした。（まぁ綿田はともかく、として。）しかし、実際の
ところ、俺の目は気がついたらいつも浅村を探しているのだ。
廊下で奴の教室の前を通る時、体育の合同の授業の時、そしてプールにいる時も。俺は、
視野の中に奴の姿を必ずどこかに止めようとした。それは、奴にはじめて会った時から、ずっと
いや、あの時に比べたら、もっと強くはっきりしたものになっている、と思った。一体これは
何なのだろう。
『浅村が気になる。』いや、そんなものじゃない。もっと、ほかの-----興味がある、いや違う。
すごく気になる。こんなのじゃなくて、
『好き。』
俺は、その言葉を思い浮かべてみた。